ピーッ!
ホイッスルが鳴った。
いつもは飄々と淡々としている彼も珍しく控えめではあるが拳を突き上げガッツポーズをした。
あたりは一面湖状態。
グランド上でみんなずぶ濡れ。
こっちも。
しかしそれは勝利の女神からの贈り物だった。
ありがたく頂戴したのであった。
長男どのの部活の公式戦。
彼らのブロックは4チームあって、上位2位抜けで決勝トーナメントへ進める。ただ未だかつて彼らの学校は決勝トーナメントへ勝ち進んだことはない・・・らしい。つまりはそんな弱小学校だった・・・らしい。
しかしこの1年を見ている限り脱弱小チームの片鱗は見せている・・・と思う。かなり今の上級生(3年生)にキャラが揃っていてそれは見ていてとても面白い。それぞれの個人技に光るものがあり、それがウマく噛み合ったときなどはなかなかの内容を伴うものとなる。そう、但し噛み合ったときは、だが。
そんな3年生の引退まで残り少なくなってきた公式戦。少しでも長く部活動を続けるためには少しでも長く勝ち残っている必要がある。今回もそんな試合。
そう、少しでも長く・・・彼らはやっていたいであろう。
そう、こちらも、少しでも長く・・・彼らの試合を観ていたいのであった。
いつの間にやら今の彼らのチームのファンになっていたのであった。
今まで弱小チームだったということはつまりは今の彼らにとってはどのチームも強豪揃いなわけだが、今回もキックオフのホイッスルから相手の怒涛の攻めにひたすら防戦の一方だった。
開始早々、左サイドからミドルを打たれまずは先制された。その後間もなく今度はセンターからループ気味に入れられ、早くも2点のビハインドを負う。
序盤でここまで崩れるとあとはそのまま雪崩のごとく滑り落ちていくのがいつもの彼らの常であった。どこで踏みとどまることができるか・・・。勝負の行方はそんな彼らの「諦めない心」に掛かっているのであった。
その2点目を入れられ、センターサークルからリスタートされたボールが次の瞬間なぜだか相手のゴールネットを揺らしたのであった。ヤケッパチとも思える「シュート」だった。しかしそんな奇策もこんなときには有効だった。前半で早くも2点先制されて、しかしその後すぐに1点返し。まだまだわからなくなってきそうな勝負の行方。前半で追い付け追い越せ!点差は1点、1-2。
こんな展開ではまだまだ捨てる気にならない希望だったのだが、後半に入り相手もこのままではマズイと思ったのかさらに1点を加点され、観ているこちらの希望は正直、半壊状態であった。1-3。う~む、これまでか・・・。観ている応援団がこれではいけないな。彼らを信じなくては!そう、まだまだ彼らは諦めてはいないのだから。
その証拠にだ。返した!1点。2-3。まだまだわかんねー!
ここいらあたりからそれまでなんとか持ちこたえていた灰色の空から我慢の限界!とばかりに一気に雨粒が落とされてきた。その勢いは加速度を増し、土砂降りモードまでシフトアップ。あたり一面アッという間に水浸しになっていき、水捌けの悪そうなグランド全体が田植えには絶好の湖のような水溜りと化してしまった。観ているこちらも傘を差していても下から雨粒の巻上げで膝から下はじっとりしてしまっている。そんな状態だものプレイしている方もたまったものではない。ずぶ濡れなのはもとより、とにかく水溜りの上ではボールが転がらない。パスが途中で止まってしまう。それはどちらのチームにとっても同じこと。つまりはどちらのチームに微笑みかけてくれるのかに掛かっている、女神様が。
序盤から圧倒的優位に立っていた側からするとこういった突然の雨降りなどによるコンディション悪化は精神的に参るのであろう。あのまま何事もなければ風はフォロー。流れに乗るままよ。ところがそこに試練。これに持ちこたえなければならないところだったのだが、しかし・・・
この泥沼を逆に味方につけたかのような彼らはその泥風のフォローに気分はアゲアゲのようだった。序盤の劣勢がまるで嘘のように活き活きと彼らは相手陣地で踊っている。
おっ!!ついに同点!!
おっっ!!!つ、ついに逆転!!!
こ、こ、こいつら、ついにやりやがった。
あとは祈るだけだ。秒針に加速装置を!!
ピーッ!
ホイッスルが鳴った。
いつもは飄々と淡々としている彼も珍しく控えめではあるが拳を突き上げガッツポーズをした。
ずぶ濡れ泥まみれの彼らはグランドで歓喜の雄たけびを上げ、控えの選手も加わり抱き合い称え合い、その奇跡とも思える勝利に酔いしれていた。
彼らは促されグランド反対側にいた親たち応援団のところへ挨拶に来た。辺り憚ることなく泣いていた3年生選手もいた。思わずもらってしまいそうになった。
どの顔も最高の笑顔を見せていた。そりゃそうだろう、最高の勝ち方だったのだから。諦めなかったもの勝ち。
あたりは一面湖状態。
グランド上でみんなずぶ濡れ。
こっちも。
しかしそれは勝利の女神からの贈り物だった。
ありがたく頂戴したのであった。
この続きがあしたある。
次勝てば予選リーグ突破。
いよいよ初となる決勝トーナメント進出なるか!?
奇しくもこれを書いているたった今、日本がウズベキスタンを下し、世界最速でワールドカップ進出を決めた!!
キックオフが日本時間で23時なもんで明朝早い長男にとって観ていては寝不足必至。世界最速W杯出場の瞬間を観たい!という長男を説き伏せ寝かせた。是非その瞬間を見せてやりたかったのだが、全ては明日のため。心を鬼にした。
このままどこまでも勝ち残り、少しでも長くいつまでもキミたちのサッカーを見せておくれ。
さて、まずはあしただ。また楽しいサッカーで魅せておくれ。
がんばって!