おっさん's だいありー

主にバイクのこととか、ランニングのこととか、Jリーグ・FC東京のこととか

病院へ行こう!その6(2)

煮るなり焼くなりー!.....

 パタパタと朝から慌しい・・・。
 というか自分自身が独りでそう感じているだけなのかもしれないが。
 他のみんなの元へは朝食が運ばれていくが、悲しいかな自分の目の前は素通りである。昨晩から何も食べていないし、ましてや「強制排泄」させられたのだから、胃の中は元より腸の中まで空っぽよん。術後の食事を夢見て、じっと我慢の子であった。
 手術は午前中に行われる。
 スッポンポンになり、手術着に着替える。
 時間になると担当の看護婦さんがストレッチャーで迎えにきた。

 潔く花と散ってきてくれー!
 ばんざーい!ばんざーい!
 がんばっていってこーい!
 勝ってくるぞと勇ましく~♪
 病室のオッサン達にエールを送られながら、オレは看護婦さんの押すストレッチャーの上でスッカリまな板の上の鯉ってぇ気分に浸っていた。
 「えーい!煮るなり焼くなり好きにしろーっ!」

 エレベーターは「中央手術室」のあるフロアに止まった。
 降りた目の前のエレベーターホールは全く人気がなく閑散としていて無音状態。シーンと不気味に静まり返っていた。看護婦さんの発するエコー混じりの足音だけが響き渡っていた。
 大きい扉の上の「中央手術室」という表示が、オレらの目的地に間違いないフロアだと辛うじて認識できる唯一のものであった。

 扉が開いた。
 その向こう側も同じような状況であった。
 本当にこの先の場所で手術という行為が行われるのであろうか?不安がよぎる。

 とある何気ない場所の丁度今自分が寝ているストレッチャーくらいの高さのところに小窓のような入口らしき扉が見えた。ガラス窓の向こうには手術室担当の看護婦さんが待機しているのが見える。つまりそこでオレの受け渡しが行われるわけだ。
 何やらベルトコンベアのようなものに移され、するとスルスルと向こう側に移動していき、手術室側のストレッチャーに無事に移動完了。病棟看護婦さんに手を振り挨拶するとオレはとっとと運ばれていったのであった。

 しかしその場所も依然それまでのような閑散さであった。ホントにここが手術室?!
 ・・・ところがそこから扉をくぐった瞬間!

 そこはまるで「市場」のような活気のある場所であった・・・

 真中の廊下を挟んで、両側にはいくつもの大小手術室が居並び、看護婦さんやら先生やらが忙しなく行き来していた。

 そこからは、まるでこんな声が聞こえてきそうだった・・・

 「へい、らっしゃい!安いよ、安いよ~♪」
 「ほれ、このオトーサンの腹の部分の大トロ!脂がしっかり乗っていて美味しいよ~♪」
 「このオニーチャンの右の”てばさき”はちょっと筋張っているけど…ほい、オマケに付けちゃおう!」
 「おぉ、このオネーチャンの腿肉はボリュームたっぷり!身もたっぷりで美味いよ~♪」
 「あ、そのオバチャンのは脂身だけだからお薦めはしないよー」
 「はい、この目ん玉!DHAもたっぷりで頭良くなるからお子さんに食べさせてあげてね~♪」

 うぅ・・・自分が食肉解体されそうな気がしてきた・・・

 そうこうしているうちに、とある小部屋に通された。
 そこにはオレをどう料理してやろうかと、ヨダレだらだらな輩が・・・すっかり被害妄想の固まりとなっているオレのオツム。

 はいはい、時間がないのよ~…とばかりに、とっととストレッチャーからいよいよ”まな板”の上へと移されたオレは鯉。周りにはいろいろな調理器具が並べられていた。どれも見るからに痛そうなものばかりだ。何をするものかは皆目見当もつかないが、とにかく痛そうなのだ。
 そうこうしているうちに、麻酔科のせんせがやってきて麻酔を掛ける段取りを始めた。

 そうそう、そういやぁ説明の時に聞いたっけ…腰椎麻酔、背骨に注射針ぶっ刺すんだったよな…。

 心の覚悟も決まらぬままに横向きに寝かされ、膝を抱えるように海老のように丸くなるよう指示を受けその通りにすると、いよいよ針の位置決めをし、そのまま・・・ズブリッ!・・・うっ、となって腰を引こうとすると、そのまま!そのまま!と促される。そんなこと言ったってぇ~…涙がちょちょぎれる今日この頃。てめぇがやられてみろー!!心の叫びは全く届くはずもなく・・・(合掌)

 麻酔が効いてくるまでの間、そのまま放置されるオレ。聞くところ腰椎麻酔ゆえに麻酔が効いてくると下半身が麻痺するとのことなのだが・・・ん?いつまで経っても普段と変わらないんだけどぉ~・・・おかしいな?おかしいな?と自分では思いつつも、じっとその時を待ち続けているオレ。

 せんせが傍らにやってきて麻酔の掛かり具合を調べ始める。


 「はい、これは痛いですか?感じますか?」


 そう言いながら、足のあちらこちらをツネリながらオレに問い掛けてくる。


 「はい、痛いです。」
 「はい、そこも痛いです。」
 「はいはい、そっちも痛いです。」
 「は~いはい、ぜ~んぶ痛いですぅ~」


 執刀医のせんせと麻酔科のせんせは隅の方へ行き、こそこそと話している。


 「あれ?ホントに効いてないのかなぁ?」
 「いやいや、そんなはずはないのだが・・・」
 「きっと、緊張感とかから効いてない気がしているだけだろう」
 「大丈夫、やっちゃえ、やっちゃえ・・・」


 おーーーい、痛いって言ってんのー!!!\(◎o◎)/

 ましてや聞こえてるし・・・(-_-;)


 でもまぁ、せんせがそう言うのなら本当にそうなのかもしれない・・・???でもなぁ確かに通常と何ら変わらない気がするし痛かったよな・・・。とはいえ、何せ”まな板の鯉”なオレ、従わざるを得ないこの悲しい性。
 というわけで、な~んら問題も障害もなかったこととして、本日のスペシャルメニューは予定通りに進行していったのであった。

 はい、取り出したるは・・・まんま大工さんの「カンナ」のような器具・・・

 はい、それをオレの左足太腿部前面に(薄皮剥ぐ為に)宛がい・・・

 はい、せ~のっ…ジョリッ!


 「・・・あ、あ、あのぉ~~~やっぱ痛いんですけど~せんせ・・・」


 「・・・え?!・・・そんなはずは・・・」
 もちょっと角度を変えて。。。


 「だだだから、全然痛いんすけどぉ~・・・!」


 またしても部屋の隅っこへ行き。。。
 「やっぱ効いてなかったんだ・・・。仕方ない、局部麻酔を打つか。」


 だったら最初からそーしろって!

 それにまたしても聞こえてるし・・・(-_-;)


 へたなことを言ってまた後で何とんでもない事をされるかわからないから、この心の叫びを飲み込んで終始”鯉”を決め込んだオレ。もうなんでもいいから早いとこ終わってくでぇぇぇぇ...というこれこそ真の心の叫びである。

 結局、腰椎麻酔をしたにも拘わらず麻酔の掛かりにくいのはオレの体質のせいか、結局、局部麻酔を皮膚を剥がす太腿側と植え付ける足首側のそれぞれの個所の周りに7~8発づつくらい打ち込まれた。だったら最初からこれら局部麻酔だけでもよかったような気もするのだが・・・そこはそれ、なにせオレ”鯉”だから黙して語らず・・・。

 ようやくそれら局部麻酔により感覚がなくなってきて手術もスタートを切った。
 前述のその大工カンナで太腿部の皮膚を削り落とし、その削り取った皮膚を今度は足首の皮膚欠損部に宛がい、縫い付けていく。もうそこまでいくと、せんせ方もお気楽モードに。世間話をしながらせっせと♪かぁさんは~夜なべをして~・・・朝寝坊したぁ~チャンチャン♪
 やはり外科のせんせは、裁縫とか上手なのかな・・・そんなことをふと思ったりして・・・。

 さてさて、始まりが少々ドタバタしたが、とりあえず無事に終わったようだ。
 すぐさま病棟へ連絡が行き、またオレはストレッチャーに乗せられ「市場」を後にした。
 もちろんオレはその部屋を出る間際、自分自身の取り付け忘れのパーツが残ってないかをチェックしたことは言うまでもない。余ってる部品があったら大変だもんね~・・・(んなアホな~)


 おぉ、お懐かしや~の病棟看護婦さんに出迎えられて、その中央手術室を後にした。
 さぁ、おうちに帰ろう。

 お帰り~♪
 お疲れさん!
 花と散ってきたかー?!
 同室のオッサン達に出迎えられての無事帰宅・・・そう、なんだか「帰宅」って感じがしみじみした。やれやれ安堵感と開放感で一杯なオレ。何はともあれ、あとは結果をご覧じろ!ってんだぁ。てやんでぇ~べらんめぇ~いみふめぇ~
 ま、オレが頑張ったんじゃなくて、せんせ方が頑張ったからこそ無事に生きて帰ることができたわけで.....一時はどうなることかと、密かに十字を切って、合掌して、念仏唱えて、線香あげて、お供えして・・・。とにかくヨカッタヨカッタ・・・ほっ

 そして今望むもの・・・・・そ、そりは・・・・・
腹減ったぁ~何か食わしてくでぇぇぇぇ.....







つづく

'02,3,9up
written by cow-boy